HOUSE STATION FOR SENIORS
シニア事業部
シニアハウスステーション
シニアライフ・エピソード
Vol.1 特養からの脱出
-今回は、「特養からの脱出」を図った方のお話しです。
10月初旬のお昼頃、弊社にご相談に来られた東灘区にお住まいのAさんは、お近くの「あんしんすこやかセンター」に置いていた《ハートページ》をご覧になられ、少し戸惑いながら来社されました。お話しをお聞きすると、Aさんは中国地方のご出身で、実家にはお母様が一人住まいしているのですが、春先に足を骨折されて入院し、1ケ月ほどで退院してからは自宅でリハビリ施設に通いながら生活をされていました。
近くにご親族がおられ色々と手助けいただいていたのですが、甘えてばかりではいけないと神戸市にお住いのAさんも月に数回新幹線を利用してお母様の所に通っていました。しかし、月に数回訪問することは自身の家族にも迷惑がかかるなどAさん自身もかなり大変で、またご近所のご親族にいつまでも負担を掛けられないとの思いから、担当のケアマネージャーさんに相談し、お母様が入所する施設を探してもらいました。
地方都市ということで待機期間もなく、2ヶ月ほどで近くの「特別養護老人ホーム」に無事入所できたこともあり、Aさんもこれで一安心と安堵していましたが、入所後1ケ月位経過した頃、お母様から泣きながら電話が入りました。急いで入所している施設を訪問すると、お母様から「入所したのはいいが周りの入所者のほとんどが認知症でお話が出来る人がいなく、職員の方も忙しく全くかまってもらえない」と泣きながら訴えられ、見た目もやつれた母を見て心配になり、早急に神戸に呼ぶべきと判断し、転居先の施設を探すためシニアハウスステーションに来られました。
お母様は神戸が初めてなので、Aさんの自宅から比較的便利な場所でとの希望でお探しするものの、予算内では空きがほとんど無く困っていたところ、相談していた施設の内の1つから空きが出たとの連絡が入りました。待機の方がおられましたが急遽入院されたので、今なら入所可能とのことをすぐにAさんに連絡し、ご兄弟と下見した上で打合せし、施設長の対応にも安心され入所を決められ、何と半月で特養から脱出できました。お母様はその後入所された施設でAさんやお孫さんに頻繁にお会いすることができ、施設でご友人もでき笑顔が戻ってきたと、Aさんも大変喜んでおられました。
一般的には要介護3以上の方は、「特養」をまず勧められますが、必ずしもその選択がベターではなく、希望者の状況をあらゆる面から検討する必要があるということを勉強させていただきました。
Vol.2 介護中の親の口座が凍結され、出金が出来ない
-高齢の親が認知症を発症し、親の銀行口座が凍結され出金ができなくなって困り果てた方のお話です。
高齢のお父様を介護しているAさん。最近お父様が足を骨折し入院し、2ヶ月ほどで退院できたものの、車椅子での生活となりました。しかも、退院後はどうもお父様の様子がおかしく、物忘れが以前に増してひどく、時々訳の分からない事を言い出したりする様になりました。診察いただくと認知症を発症しているとの事でした。
ある日、お父様の関係で少しまとまったお金が必要となり、Aさんが銀行に出向き出金を依頼すると、担当の方から本人確認の依頼があり、息子である旨を伝えても本人以外の出金は無理との事。本人は、認知症を発症している旨を伝えると別の担当が出てこられ、「認知症で本人の意思確認ができないのであれば、申し訳ありませんがこの口座は凍結となり、以後は成年後見人を立てていただかねばなりません」と言われました。息子である旨と運転免許証を提示しましたが、「申し訳ありませんがいくら息子様でも無理です」と応じてもらえませんでした。困り果て知り合いの弁護士に相談したところ、成年後見制度の説明をしていただき、手続きに着手してもらいました。認知症を発症してからの成年後見制度は「法定後見制度」となり、成年後見人は家庭裁判所の選任となるため3ヶ月~4ケ月くらいの期間が必要となり、大変な思いをされたようです。
入院したら認知症が進んだなど、高齢になると多くの方が認知症を発症します。その時あわてないように準備しておいた方がご家族も困らないと思います。
準備には「任意後見契約」と「家族信託」というのがあります。今回はまず「任意後見契約」から簡単にご説明します。「家族信託」については、次回ご説明させて頂きます。
通常認知症を発症して本人の意思の確認が出来ない場合は、成年後見制度を利用します。意思の確認が出来なくなってから成年後見制度を申し立てした場合は「法定後見制度」となり、家庭裁判所主体での手続きとなり、成年後見人の指名等は家庭裁判所が行い、通常申し立てから前述のように3~4ケ月位の期間がかかります。これに対して「任意後見制度」は、まだ本人の意思の確認が可能な内にご親族等と「任意後見契約」を締結しておけば、いざという時に成年後見制度の利用が非常にスムーズとなります。「任意後見契約」とは、予め代理権を与える人と内容を決め、その内容を公証人役場にて公正証書にするものです。事前にこの契約をしておけば認知症を発症した場合、任意後見人が任意後見監督人を立て家庭裁判所に申し立てをすれば成年後見制度が利用できます。ご健全な時、または認知症の疑いが出始めたときに早めに締結しておけば少し安心できるのではないでしょうか。弊社にご相談いただければ手続きのアドバイスや法的専門の方をご紹介させていただきますのでお気軽にお声かけ下さい。
Vol.3 介護中の親の口座が凍結され、出金が出来ない-2
-前回に続き高齢の親が認知症を発症し、親の銀行口座が凍結され出金ができなくなって困り果てた方のお話です。前回では認知症による資産凍結対策として「任意後見契約」についてお話しをさせていただきました。もう一つの対策として、今回は「家族信託」について簡単にお話しさせていただきます。
一般的に「信託」というと、資産家を相手に信託銀行等が営利を目的として事業をしている「商事信託」が思い浮かびますが、「家族信託」とは、営利を目的としない家族間の信託契約を公正証書(必ずしも公正証書である必要はありませんが、後日のトラブルを回避する為)として交わすもので、家族等に自己の財産の管理を任せる契約です。
例えば、自分が認知症になり、自分の財産の管理ができなくなった場合を想定し、意思表示能力のあるうちに自分を委託者、家族を受託者として信託しておき、生活費や医療費・介護費を支払ってもらったり、自分を委託者兼受益者として所有する不動産の処分を任せてその代金を得たり、賃貸運営を任せて家賃を得たりすることも可能です。その他事業を営んでいる場合、その後継者を受託者にして自分を受益者とすることで、事業からの利益を引き続き受け取ることも可能です。それ以外にも比較的自由に信託内容を設定できるため、認知症対策に利用することが出来ます。
前回に続いて認知症対策についてご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。高齢になればかなりの確率で認知症を発症する可能性は高いです。いざという時に慌てたり、困ったりしないように事前に準備をご検討下さい。
Vol.4 母の介護が出来ない
-今回は、お母様と二人でお住まいになられていた娘のAさんのお話です。
Aさんは大手企業に長くお勤めされているキャリアウーマン。同居のお母様は80歳代でお元気でしたが、2年前に脊椎狭窄症を発症され、足と排泄が少し不自由になられたところ、転倒され骨折し車椅子での生活になりました。認知症はなく足以外はお元気なので、Aさんはお仕事を続けながらお母様の介護をしつつ、母娘二人仲良く暮らしておられました。
今年の4月にAさんのお母様の担当ケアマネージャーさんから、急ぎの案件ということで弊社にご相談いただきました。ケアマネージャーさんからは、Aさんに病気が見つかり本格的な治療・療養が必要となり、お母様の介護ができなくなったため、至急、お母様が安心して暮らせるところを探して欲しいというご依頼でした。
条件は、現在のお住まいからあまり離れず、お母様の車椅子と排泄のヘルプ、認知症の方があまりいらっしゃらず明るく暮らせる環境という内容でした。早速いくつかの施設をピックアップし、まずAさんに内見いただき、二施設に絞り込んだ上でお母様に内見いただきました。二施設とも気に入っていただいたのですが、お住まいから近い方がAさんも訪問し易いということで、そちらに決められ入居されました。
Aさんは仕事を退職し治療にあたられることになりましたが、一番気がかりだったお母様の介護の心配が無くなり一安心。お母様はAさんの体調の事が気がかりで、Aさんが治療に専念できるようにと自らすすんで入所を決断されました。
お話をしていると、お母様と娘さんお二人から互いに相手を思いやる気持ちが伝わってきて感動しました。各人、各家庭、それぞれの様々な事情があり、その状況をしっかり確認して対応させていただかねばならないことを改めて感じました。
Vol.5 殺人事件発生???
-事件についてご紹介します。
ご相談にこられたAさんは長年サラリーマンをされていた単身の50代の男性です。ご相談内容は、同居している80代の実母さんの事でした。数年前から同居のお母様は少し足が衰えてこられ、自力歩行がだんだん厳しくなって来られていた矢先に認知症を発症されたそうです。お母様は、Aさんの仕事中週2回デイサービスを利用する以外は自宅で過ごされていましたが、ここ1年ほどAさんが帰宅するとトイレで粗相をし、ひどく汚れて片付けも全然できず、散らかし放題でお部屋はかなりひどい状況になっていました。Aさんは仕事から帰られてからの清掃と片付けに大変な思いをされていました。お母様の症状が日々ひどくなる中、Aさんは長く勤められた会社を退職しお母様の介護に専念することにしたのですが、それは壮絶な日々の始まりでした。
息子:「また粗相してトイレを汚して、自分で掃除しろ!」母:「お前が子供の時は私が世話をしたのだからそれくらいお前がしろ!」息子:「仕事を辞めてまで面倒みているのに!」母:「ご飯はまだか、お腹すいた!」息子:「さっき食べたやん!」
親子ですのでお互い感情的になり言い争いが絶えない日々、耐えられなくなったAさんはお母様のホームへの入所を検討しました。お母様に伝えると、母:「お前は親を捨てるのか!」「殺せ、今すぐ殺せ!」息子:「私を犯罪者にしたいのか!」このような状況から困り果てたAさんは担当のケアマネージャーさんに相談したところ、一度老健のショートステイの利用を勧められ、ケアマネージャーさんにお母様が老健施設に併設するデイケアセンターに変更する事を説得してもらい、しばらく通所して慣れた頃に老健のショートステイに1ケ月入所させて見たところ、老健のショートステイではお母様は案外大人しく、楽しそうに過ごしていましたのでこれはいけるかと思い、受け入れてもらえる施設を探し、先日施設とお母様の面談も終わり何とか施設への入所が決定しました。一息ついたAさんが「あのままの日々が続いていたら本当に犯罪者になっていたかも」と呟かれたのが本当に切なく思いました。これからもご高齢者の方がどんどん増えてくる中、様々なドラマがあるのだろうなと感じました。
Vol.6 やばいぞ、サウナか・・・熱中症警報!!
-今回は、60歳代の娘Aさんと95歳になるお父様のお話です。
お父様は6年前に奥様を亡くし、ご自宅にお住まいでした。お父様は95歳にも関わらず認知症も発症しておらず、要支援1で杖や手すりは必要でしたが自力歩行ができ、食事も入浴もご自身でされていました。ご自宅でお父様はAさんの兄と同居していたのですが、兄も仕事があり日中は家におらず、そもそも兄とお父様は不仲なため同居しているとはいえ、お互い全く無干渉で独居に近い状態でした。そのためお父様が心配なAさんは、ご自宅から約1時間掛け高速道路を利用して週2回お父様を訪問し、買い物や通院、お部屋の清掃などを行っていました。
6月に入りAさんがいつものようにお父様を訪問したところ、その日は真夏日で30℃を超えているにもかかわらず、窓も開けず扇風機もエアコンも付けずにテレビを見ているお父様がおられました。Aさんが「暑くないの」と聞くとお父様は「えっ、暑いかわからん。」と答えられました。Aさんは熱中症になると思いすぐにエアコンを入れてから買い物に行きました。それからAさんは自宅に帰り、ネットで調べたりケアマネージャーの方にお聞きすると、「お年を召されてくると暑さ寒さの感覚が鈍くなり、また体温の調整機能が落ちてくるので高齢の方の熱中症が増える」との事でした。
7月に入ったある日、Aさんがお父様を訪問すると、その日は35℃の猛暑日でお部屋の中はまるでサウナのような暑さでした。またまたお父様は、窓を閉め切ってエアコンも入れずにソファに横になっていました。もしかしたら熱中症で倒れているのかと思ったAさんは、お父様に声をかけるとお父様は少し眩暈がしたから横になっていたとのこと。先日調べたり教えてもらったりしたことを思い出し、普段は全く会話しない兄とも状況が状況なだけに相談し、お父様が暮らせる施設探しを弊社にご依頼されてこられました。
要支援1でお元気なだけに、なかなか予算内で受け入れていただける施設も少なく苦労しましたが、今のお住まいから少し離れたところに何とか1ケ所施設を見つけ、先日内覧に行っていただいたところです。今後そこに入所するのかどうかはこれからの相談ですが、いくらお元気とはいえ、高齢者の独居はいろいろと問題があり、何が起こるかわからないと感じたのと、Aさんが早くに気が付いて手を打たれたため、不測の事態を回避することが出来て良かったと思いました。
Vol.7 まさか・まさかのヒートショック
-今回は、「まさか・まさかのヒートショック」事件のお話です。
ご相談者のAさんは60歳目前のサラリーマンで、勤務先では取締役としてご活躍されていた方で、ご相談内容は、現在90歳になったお父様の件でした。
お父様は元々公務員をされておられ、退人後学校法人に75歳まで勤務されていました。退職後は奥様とお二人で暮らしていましたが4年前に奥様を亡くされたことから、Aさんは週3回ほど会社帰りにご自宅で一人暮らしされているお父様を訪問し、食料や必要品を届けて様子を窺うようにしていました。幸いお父様は認知症も発症せず、少し足が弱っている程度(要支援2)のため、週2回ヘルパーさんに来てもらい、掃除や買い物など身の回りのことを手伝ってもらっていました。Aさんは、お元気とはいえお父様も90歳を超え、いつ転倒したり火事や詐欺・強盗などの事件に巻き込まれるかと心配なこともあり、安心して暮らせる終の棲家を探したいとのご相談でした。只、お父様はまだご自宅にいたいという希望があるため、急ぎはしないもののAさんが訪問し易く、認知症の方があまりいないアットホームな施設をというご希望でした。
そのご要望にそえるような施設をお探していたところ、ある日、勤務中のAさんにお父様を担当するヘルパーさんから電話があり、「今日、訪問のお約束の日なのですが、いつもはすぐに出て来られるのに何度インターフォンを鳴らしても出て来られません。鍵もすべて掛かっていてご自宅内を確認できないため、こちらに来ることはできませんか?」との事でした。Aさんが駆けつけて自宅に入ると、トイレもリビングも二階のお父様の自室にもどこにもいませんでした。もしかして外出かと思ったのですが、昼間だったのでお風呂を確認していないことに気づき、バスタブを確認するとそこに浮かぶお父様がおられたとの事でした。すぐに救急車と罹りつけ医に連絡し、来てもらったところ既に手遅れで、所謂「ヒートショック」との事でした。
その後警察が来て事件性の調査などで大変だったようです。罹りつけ医からは「ヒートショックの場合、本人は一瞬のことで何も苦しまず、所謂ピンピンコロリで、かえって幸せだったかもしれません。」と慰め半分に言われたとの事でした。Aさんは「せっかくいろいろと施設を探していただいていたのに申し訳ない。お医者さんはそのように言うが、私としては本人をもっと早く説得し、終の棲家を探して入所させていればこんなことにならなかったのにと考え後悔しています」とおっしゃっていました。残されたご遺族のお気持ちを思うと本当に切なく、これからの活動に生かせればと思いました。
Vol.8 「お母さん、いったいどうしたん?」
-今回は、50歳代の上場企業幹部社員のAさんとお母様のお話です。
Aさんは誰もが知る上場企業の幹部社員で、部長職も近いという方です。お母様は昨年お父様を亡くされ、Aさんのご自宅からかなり遠方の実家でお元気にお一人住まいされていました。Aさんは、お一人住まいのお母様の事が気にはなりながらもお仕事も忙しく、遠方のためお正月くらいしか帰郷できず、その代わりに2週間に1度は電話で会話をしたり、見守り付の電気ポットや何かあった時のための緊急駆けつけシステムなどを導入していました。
今年のお正月に帰郷した際もお母様はお元気で、美味しい食事をたくさんご馳走してもらい安心していたところでした。その後も2週間に1度くらい電話をしていたのですが、4月に電話した時の電話口のお母さまの様子が少し変でした。Aさんのことを亡くなられたお父様の名前で呼んだり、実家に帰っていないのに買物を依頼されたりと、時々話が合いませんでした。心配になったAさんが休暇を取り帰郷したところ、お部屋がひどく散らかっており、冷蔵庫も期限切れの食材が沢山残っていて、綺麗好きのお母様のお住まいとはとても思えない状態でした。「お母さん、いったいどうしたん?」と声をかけると、やや虚ろな目をして「お帰り、どうしたん」と返答され、Aさんは思わず「どうしたんて、こっちが聞きたいわ」と聞き返しましたが、お母さまからの返答はありませんでした。お母さまの様子を見てこれは尋常ではないと思い、身の回りの物を鞄に詰め取り敢えずAさんのご自宅に連れて帰りました。
ご自宅にお母さまを連れて帰ったAさんは、病院に行き診察してもらったところ、やはり認知症を発症されておられました。取り急ぎお母さまの住民票をAさんのご自宅に移し、お医者様の紹介で地域包括センターに相談し、ケアマネージャーさんを紹介頂き要介護認定したところ、要介護2と認定されました。しばらくの間お母様はAさんのご自宅で同居されていましたが、だんだん記憶が曖昧になり、同じことを何度も言ったりお部屋も散らかし放題となり、とても長時間一人にしておくことが出来る状況ではありませんでした。Aさんはそんな状況に頭を抱え、せっかく頑張って築いたキャリアを捨て、退職して介護をするべきか悩んでいました。そんな中、ケアマネージャーさんに相談したところ、「老健施設のショートステイを利用しながら入所できる施設を探してみては?」とのアドバイスを受け、今回弊社に施設探しをご依頼いただきました。
お話しをお聞きすると本当に大変な思いをされましたが、早い段階で色々な方に相談され手を打ってこられていたので良い方に進んでいますが、もしそのままにしていたらお一人住まいのお母様がどうなっていたのか、また長く苦労されたAさんのお仕事のキャリアもどうなっていたか。それ以外にもこれから認知症になったお母様の預金引き出しやご自宅の処分などのため、家庭裁判所を通して法定後見人が必要な事など、費用がかなり掛る事を説明させて頂きました。Aさんは息子である自分が代理出来ると思っていたようでかなり驚いていました。
これからは「介護離職」を検討される方も増えてくると思いますが、普段からご高齢者に起こる可能性について想定し準備を検討しておくことが、双方がより幸せに解決できる最善の方法であると認識させられました。お元気なうちから認知症や自立できなくなった場合の事を考えておかれることをお勧めいたします。
Vol.9 映画 ロストケア
-昨年公開された松山ケンイチさん、長澤まさみさん主演の映画「ロストケア」についてのお話です。
この映画は多くの方がご覧になられていると思いますが、私もこの夏季休暇中に遅ればせながら鑑賞いたしましたので、その感想を少し書かせていただきたいと思います。本映画については様々なご意見があろうかと思いますが、あくまで私個人の感想ですのでご了承ください。
本映画は「ミステリー」「サスペンス」という分類ですが、実際は現在の超高齢化した日本の社会問題を浮き彫りにしていると思います。主人公の松山ケンイチさんが演じる介護士斯波宗典は、高齢者及び高齢者家族に優しく親身に接し、同僚からも尊敬される介護士でした。ある日、斯波の勤務する介護センターのセンター長が介護先高齢者宅で亡くなっているのが発見されました。センター長はギャンブル癖があり、深夜に独居の高齢者宅に忍び込み金品を盗んでいました。殺人犯人捜査において現場近くの防犯カメラに斯波が写っており、現場にも斯波の血痕が残っていました。斯波は殺人容疑者として長澤まさみさんが演じる検事大友秀美から取り調べを受けます。その結果、斯波はセンター長だけではなく42名の高齢者を殺害していました。大友検事は「家族の絆をあなたが断ち切って良いわけがない」と憤って言いましたが、斯波は「これは喪失の介護、ロストケアです。私は42人を救いました」「安全圏にいるあなたには穴の底のことはわからないかもしれない」と自白します。捜査が進み斯波が最初に殺したのは自身の父親でした。普通のサラリーマンをしていた斯波が事故で介護が必要となった父親のために退職し、アルバイトをしながら介護をしていました。父親が認知症を発症しそのアルバイトも出来なくなり、収入は父親の年金7万円程となり、貯金が尽きて食事もままならない生活が続く中、時々通常の状態となる父親から「息子を覚えているうちに父親として死にたい。殺してくれ」と頼まれます。斯波は注射器でタバコからニコチンを抽出したものを注射し、父親を殺害しました。医師の検死の結果は心不全としか書かれず斯波の犯行はばれませんでした。そのことに何か運命を感じた斯波は介護士の資格を取り、父親や自分と同じような境遇の家族を救う事を考え、結果41名の高齢者を殺害しました。斯波は「この社会は穴が空いている。穴の底に落ちてしまった人間は簡単には這い上がれない」と語り、自力で生活できない高齢者や彼らを献身的に介護する家族を「自己責任」という言葉で社会は冷たく突き放している現状があるのではないかと問いかけています。
この映画を見て私自身も高齢化社会について改めて考えさせられました。「親には長生きしてもらいたい」と思いますが、その前提は介護の必要もなく今まで通り元気でいる親の姿です。人間老いれば要介護や認知症、または他の疾病というのが当たり前の事なのに、どこか他人事でその境遇にならなければ認識できないのだと思います。確かに経済的に余裕の有る方は多くの選択肢があり、問題をクリアできると思いますが、経済的に余裕のない方は厳しい現実に向き合うことになると思います。これからますます高齢者が増える日本においてどのような政策が施されるのか、または映画にあるように突き放されたままなのかは分かりませんが、富裕層・一般層・貧困層に限らず、人は老いていくという現実をもっと社会として考えていかねば、ネガテイブな未来に向かうのではないかと思います。例えば「シニアライフエピソードVol.5殺人事件発生・・・?」で紹介した「お前は親を捨てるのか!」「殺せ、今すぐ殺せ!」「私を犯罪者にしたいのか!」のような親子の状況や、「安楽死」といった問題にもつながってくるのではないでしょうか。政策として行政が考えるべき必要性と併せて、家族が「老いる」という現実について、出来るだけ早い時期に本人及び家族が認識することが、家族の絆であり重要なことだと思 います。高齢者とその家族がお互いに不幸な人生にならないようにしなければならないと思います。
まとまりのないエピソードとなり申し訳ありませんでしたが、シニア事業の隅っこに居るものとして「ロストケア」という映画は色々と考えさせられました。
Vol.10 ヤングケアラー
-「ヤングケアラー」という言葉をご存じですか。
Aさんはご主人と離婚をされ、シングルマザーとして8歳の娘さんB子ちゃんと二人暮らしでした。経済的にもB子ちゃんの子育てのためにも必要であると考え、神戸市内に独居されていたお母様のところで同居を始めました。しばらくは、お母様の年金とAさんの収入で3人仲良く暮らしていましたが、同居後2年ほどしてからお母様が階段で転倒され、足を骨折し入院されました。3ヶ月でお母様は無事退院されたのですが、退院後少し様子が変わっていました。お母様は入院したことが原因なのか、少し認知症の傾向が出てこられていました。時々話が食い違ったり、整理整頓好きなのに部屋が散らかっていたり、スーパーでも買い忘れが増えたりしていました。Aさんは心配になりお医者様に相談しましたが、具体的な治療方法はなく経過観察となり、お医者様からは地域の「あんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)」への相談を勧められました。
早速、ケアマネージャーさんにお願いし介護認定申請を行ったところ、認知症も軽く日常生活も基本、自活可とのことから要支援2の判定でしたので、取り敢えず今まで通りご自宅で暮らすこととなりました。Aさんは収入を得るため朝早くから夜遅くまでお仕事に没頭し、お母様の介護はB子ちゃんに手伝ってもらっていました。介護と言ってもお母さまは時々物事を忘れたり、以前と比べると動作が遅くなったりする位のことで、ほぼご自分で出来ていましたので問題はなかったのですが、数年してB子ちゃんが中学生になった頃からお母様の認知症が進み、粗相をしたり、人の見分けがつかなくなったり、食事が出来なくなったり、勝手に家を出て徘徊したりするようになりました。B子ちゃんは学校が終わるとまっすぐ家に帰り、お母様の粗相の片づけや食事の用意と補助や身体の清拭や、時には徘徊しているお母さまを探しに行かねばならないなど、本来お友達と遊んだりスポーツや学業に取り組むなどの大事な時期に介護に手を取られる毎日でした。あまりにB子ちゃんの負担が大きいため、ケアマネージャーさんが心配され、お母様の対応についてA子さんと相談したものの、経済的に施設に入所するための予算があまりなく、認知症も重度のお母様の行き先探しは厳しく上手くいきませんでした。
予算の問題がネックとなる中、A子さんはお母さまのご自宅の売却を決断され、その売却資金で賄うこととしました。早速弁護士に相談し成年後見制度の手続きを進め、ご自宅の売却の目途をつけて無事入所することができ、B子ちゃんもしっかり学業に取り組めるようになりました。
現在「老々介護」「介護離職」に加え「ヤングケアラー」の問題も深刻となってきていて、小・中学生・高校生の約5%~6%が経験しているとのことです。親族の介護は当然ながら重要な事ですが、本来学業や人間関係の基礎を積んでいく大事な年頃の世代が介護ばかりに携わらなければならない状況については、「老々介護」「介護離職」同様、行政が検討しなければならない問題ではないかと思います。
Vol.11 「何するの、義妹よ」
-今回は、神戸市内在住のA子さんからのご相談です。
A子さんは、ご主人の実家でご主人と息子さん、ご主人のご両親と一緒に暮らしていました。A子さんのお母様は、お父様が早くに亡くなられ他県でお独り住まいでした。幸い公務員をされていたお父様がしっかりと蓄えをされており、ご自宅もあり比較的余裕のある生活をされていましたが、お年も召され足腰も弱くなり、お独り住まいもおぼつかなくなったことから、お近くにお住まいだった弟さんご夫婦が同居し暮らすようになりました。A子さんは、お母様の事が気になりながらも、弟さんのご家族と同居のため、以前のように度々実家に行くことを遠慮されていました。
お正月を迎え、A子さんが新年の挨拶のため久し振りに実家に行ったところ、お母様の部屋はエアコンもつけておらずストーブもなく、お母様が寒そうに布団にくるまり一人でテレビを見ていました。何故そのようなことになっているのかお母様に尋ねると、弟さんの奥さん(義妹)から電気代が高くなるとか色々と嫌味を言われ、冬だけでなく夏もあまりエアコンをつけてないとの事でした。A子さんは、お母様がご自宅にもかかわらず肩身の狭い生活をされているようで気になりながらも、その時は一旦帰宅されました。帰宅後もお母様の事がとても心配になりご主人に相談したところ、ご主人は義実家のことなので暫く様子を見た方が良いのではないかという意見でした。
数ケ月が経過し、久し振りにA子さんがお母様のところに行かれたところ、いきなりお母さまが泣き出しました。お母様を落ち着かせ何があったのかを聞くと、相変わらず弟さん家族とは食事も別で、ほとんどお部屋にこもりっきりの状態とのことでした。お母さまが銀行の通帳を出してこられ、A子さんが中を確認するとかなりの大金が引き出され、残額が少なくなっていました。お母様から訳を聞くと、義妹から孫の誕生日や学費の援助を言われ、待遇がこれ以上悪くなるのが嫌で言う事を聞いていたとのことでした。あまりの事で頭にきたA子さんは、弟と義妹を呼び、お母さまを神戸に連れて行くと宣言し、取り急ぎ神戸に帰りご主人に伝えたところ、ご主人もびっくりして当面の同居に同意し、お母さまを引き取りに行くことになりました。弟さん夫婦は、急にお母様を神戸に連れて行くことに反対しましたが、連れて行く理由はあなたがたの胸に聞くように言いました。
そういった事情がありお母様を引き取りましたが、ご主人のご両親の自宅という事もあり、いつまでも同居というわけにはいかず、A子さんからお母様が暮らせる賃貸住宅を探して欲しいとのご相談がありました。色々とご相談させていただき、A子さんのご近所であればお母様の賃貸住まいも今のところは可能でしょうが、いずれご主人のご両親の介護やお母様の健康状態によっては,A子さんやご主人に負担がかかる可能性も高く、またご高齢の方が何度も環境が変わるのもどうかという事になり、思い切って安心して暮らせる施設を探すようにしました。入所のための費用は、お母様の年金とお母様のご自宅の賃料を弟に支払わせることで賄う予定とのことでした。
今回も肉親とはいえ色々な問題があるのだと教えられました。
Vol.12 高齢者施設崩壊
-今回のお話は「高齢者施設崩壊」です。
今までも職員による入居者への虐待事件はよく報道されていましたが、最近のニュースでは、虐待ではなく「高齢者施設の閉園」が取り上げられ、ご存じの方も多いとは思いますが、関東のある施設では経営の杜撰さ(給料未払い等)から施設職員が一斉に退職し、35名の入居者に対し職員1名という異常な状況が発生し、入居者家族にも知らされず閉園という事態になり、地元行政が親族や残った職員と一緒に入居者の行先を必死に探している状況であるとの事です。同じような施設が北関東にも有り、同じくニュースになっていました。
さて、今回のご相談者A子さんは、先に奥様を亡くされたお父様の事でした。お父様は85歳でまだまだ意思もしっかりしていましたが、足腰が若干弱ってきていたため、何かあってからでは遅いと思いA子さんのご自宅に近いエリアで施設を探そうとしましたが、お父様は、やはり長年暮らしてきた実家に愛着があり、結果的には実家の近くで施設を探し入居させました。
久し振りにA子さんがお父様に会いに行かれた時、お父様から「最近知り合いの入居者が退去していくが何かあるのか」と不安げにお話しされたとの事。A子さんはそれとなく顔見知りの職員の方に聞いてみると「入院されたりご自宅に戻られたり、他の施設に転居される方もおられますから」と少し曖昧な返答でした。施設の運営が気になったA子さんは、たまたま面会に来ておられたご親族の方にさりげなくお聞きしたところ、「このところ職員の入れ替わりが多く、職員の人数も以前よりも減少しているので他の施設に移る準備をしている」との事でした。そういえば、顔見知りの職員も何人か最近見かけないようになったとA子さんも感じました。
A子さんは一旦ご自宅に帰りましたが、お父様の事がどうしても気になりご主人に相談したところ、ご主人は気になるならお父様を説得し、思い切ってこちらの近くで転居先施設を探したらいいのではとのアドバイスをしてくれました。A子さんは、お父様がまだお元気なうちに自分の近くの施設に転居させる決心をしました。早速お父様のところに行き、毎々ここまで会いに来るのは大変なので私の自宅近くの施設に転居してはどうかとお話ししました。お父様は、最初転居することにあまり乗り気ではありませんでしたが、何度も話したところやっと納得されました。A子さんからは、ご自宅の近くで出来れば大手が経営していて比較的お元気な入居者が多く、将来もしっかり面倒を見ていただける施設をという条件で施設探しをご依頼いただきました。
後からお聞きしたところ、現在の施設は職員の待遇が悪くなり退職される方が増えていたそうです。色々な事情があるとは思いますし、一概には判断できないことは理解しますが、やはりこれからどんどんと高齢者人口が増加し、超高齢化社会となる我が国において高齢者事業に関与する方の待遇については、国としても優先して検討する必要があるのではないかと思います。せっかく高齢者のために施設運営等の事業をしていても、経営が出来なければ継続できず閉園につながるケースも増え、高齢者のご家族の負担が余計に増えることとなるでしょう。そういったことからも、やはりこの業界の地位がもっと向上しなければいけないのではないかと思います。